工事台帳は、現場ごとの受注額と実際にかかった原価を並べ、採算と未処理を早めに見つけるための社内管理表です。「工事台帳」という名前だけでは帳票の種類が決まらないため、社内の原価管理用台帳と、建設業法で備付けが求められる帳簿、施工体制台帳、決算変更届の工事経歴書を区別して管理します。

この記事では、工事ごとの採算を確認したい建設会社・個人事業者向けに、日々の記録項目、架空の記入例、追加工事の扱い、月末の締め方を説明します。法律上の帳簿に必要な項目や保存期間は、令和8年1月版の国土交通省資料と現行法令を2026年10月12日に確認しています。様式・要件は改正されることがあるため、法定帳簿や施工体制台帳を作成するときは記事末の公式資料を確認してください。

4種類の「工事台帳」を混同しない

建設会社で「工事台帳を出して」と言われたとき、相手が求めているのは社内の原価表とは限りません。まず用途を聞き、必要な記録を取り違えないようにしましょう。

名称が似た帳票の使い分け
書類主な目的作成・備付けの考え方
社内の工事台帳・原価管理表工事別の売上、実行予算、発注、実績原価、粗利益を管理社内ルールで様式・締日・承認者を決める。単一の全国共通の法定書式を指す名称ではない
建設業法第40条の3の帳簿営業所ごとに請負契約等の営業取引を記録し、契約書類等と備付け建設業者に求められる法定の帳簿。原価管理表だけで必要記載・添付書類を満たすとは限らない
施工体制台帳・施工体系図対象となる工事現場の施工体制・下請関係を明らかにする公共工事か、民間工事か、許可区分や下請契約額等により作成・掲示等を確認
工事経歴書(様式第二号)事業年度ごとの完成工事等を許可申請・決算変更届で報告会社の年度実績を所定様式へ整理する資料。日常の支払・原価台帳とは別目的

「工事台帳」という語の範囲は会社や発注者によって異なります。社内表を整えるときは、それを法律で定めた帳簿そのものだと誤解しないでください。法定帳簿の基本は建設業法第40条の3、様式第二号の年間実績の整理は工事経歴書の書き方で別々に確認できます。

原価管理台帳に入れる項目

社内の工事台帳は、後から「いくら受注し、何にいくら使い、どの金額がまだ確定していないか」を追える形にします。最初から列を増やしすぎず、次の項目を工事ごとに一つの記録へまとめると確認しやすくなります。

  • 工事の特定:工事番号、工事名、発注者、施工場所、契約日、着工日、完成予定日、担当者
  • 契約金額:当初契約額、税区分、変更契約・追加工事額、請求額、入金額、未収額
  • 予算:材料、外注、労務、機械・運搬、現場経費など社内で採算を確認する費目
  • 実績:発生日、費目、取引先、内容、金額、請求書・納品書等の参照番号、承認状況、支払状況
  • 見込みと差額:未請求・未払の見込額、予算との差、粗利益の見込み、更新日と確認者

工事番号は見積書、契約書、注文書、請求書、会計データ、現場資料で共通して使います。例えば「26-014」のように年度と連番を付ける方法がありますが、番号自体に法定の指定はありません。重複しない採番と、後から検索できる保存場所を社内で決めます。

金額の税区分も固定します。税込と税抜が行ごとに混ざると、実績と契約額を比較できません。税抜で原価を集計する場合は、仕入税額の扱いを会計処理と合わせ、税込の注文書を転記するときに税抜額・消費税額をどう記録するか決めてください。

架空工事の記入例

以下は説明のための架空の例です。実際の金額・税務処理・勘定科目を示すものではありません。契約額・実績原価はいずれも税抜でそろえた仮定とします。

工事番号26-014・事務所内装改修(仮定例、税抜)
費目・項目実行予算実績・見込記録例
請負金額4,000,000円4,000,000円当初契約。変更額があれば別行で追加
材料760,000円740,000円10/2、配線材、納品書M-14、承認済
外注920,000円900,000円10/5、塗装工事、注文書S-03と請求書S-19を照合
労務1,180,000円1,210,000円現場別の作業日報・配賦ルールを参照
機械・運搬250,000円235,000円車両・機械の利用日と配賦根拠を記録
現場経費330,000円315,000円現場で直接発生した費用。社内共通費とは区別
合計原価・粗利益3,440,000円・560,000円3,400,000円・600,000円粗利益=契約額-原価。社内管理上の概算

この例で確認したいのは、最後の利益額だけではありません。労務費が予算より30,000円増えた理由、材料が予算より20,000円下がった理由、注文書と請求書の金額が一致しているかを見ます。差の説明を「予定どおり」「追加対応」など短く記し、必要なら根拠資料の番号へリンクします。

工事完成時の利益率を表示する場合、上の例では仮定の粗利益600,000円を契約額4,000,000円で割り、15%です。ただし、この粗利益には本社共通費、営業費、金融費用、税金等が含まれない場合があります。社内で「粗利益」と「最終利益」を同じ意味で使わず、計算範囲を欄外に明記してください。

追加・変更工事と未確定額の管理

工事中に仕様や施工範囲が変わったら、社内台帳の金額を先に上書きするのではなく、変更前後を追えるようにします。発注者との合意がまだの作業は、確定契約額に混ぜず「見積提出」「承認待ち」等の状態を付けて、受注済みの変更契約と区別します。

  1. 変更内容と発生日を記録し、誰から依頼されたかを残す。
  2. 追加見積の範囲・金額・税区分・工期への影響を作成する。
  3. 注文書・変更契約書など合意を確認できる書面を保管し、既存契約と関連付ける。
  4. 承認済みの変更だけを確定契約額へ反映する。未確定分は見込欄に別表示する。
  5. 追加費用の発注・納品・請求を変更工事番号または親工事番号で追跡する。

口頭の依頼だけで作業を進める場合も、後で確認できるよう依頼内容、日時、相手、見積・承認の状況を記録し、契約書類の整備は別途進めます。請負契約の内容や変更を書面等で明確にする義務と、社内の採算記録は目的が異なります。契約書類の確認は建設工事の契約書面と追加工事の整理も参照してください。

日々の入力から月末確認まで

担当者任せにせず、記録がどの資料から転記され、誰が確定するかを決めます。小規模事業者でも、見積・契約から支払まで同じ工事番号を付ければ、複雑なシステムがなくても差異を見つけやすくなります。

  1. 契約時:工事番号を発行し、当初契約額・税区分・工期・予算・担当者を登録する。発注者の注文書や請負契約書の保存先も記す。
  2. 発注時:外注先・材料店ごとに見積、発注日、納期、注文金額、変更履歴を記録する。口約束の発注を残さない。
  3. 施工中:納品書・作業日報・機械記録を工事番号にひも付け、発生時点で未請求費用も仮計上する。
  4. 請求・支払時:注文額、納品・検収、請求額、支払額を照合し、差額や未払いを残したまま完了扱いにしない。
  5. 月末・完成時:現場責任者と事務担当が予算差、追加工事、未収・未払、粗利益の見込を確認し、更新日・承認者を記録する。

共通費や複数現場にまたがる職人の労務費を配賦する場合、配賦基準(作業時間、稼働日、現場面積など)と更新者を固定します。工事ごとに基準を変えると利益比較が崩れます。社内全体で一致しないときは、採用した方法と理由を残し、税務上の帳簿・決算の金額と対応できるようにしてください。

建設業法の営業所帳簿と保存

建設業法第40条の3は、建設業者に営業所ごとの帳簿の備付け等を求めています。国土交通省の令和8年1月版資料では、帳簿に記載する契約内容や、契約書・注文書等の添付書類、保存期間を案内しています。社内の採算台帳の列を埋めただけで第40条の3の帳簿が完成したと判断せず、営業所単位の備付け、必要項目、証憑との対応を別に確認してください。

一般的な帳簿・添付書類の保存は、工事目的物の引渡しから5年間が基本です。発注者と締結した住宅を新築する建設工事に関する一定の帳簿・図書は10年間となる場合があります。保存期間の起算日・対象書類は法令と取引条件で確かめ、社内の工事台帳だけでなく、契約書、注文書、請書、検査・引渡し等の書類を紐づけて保管します。電磁的記録を利用する場合も、法令上の要件を満たす方法で表示・出力できるようにします。

第40条の3帳簿の記載事項・添付書類は、建設業法施行規則第26条から第28条に規定されています。官公庁や取引先へ提出する目的で使う場合は、相手が求める書式、対象期間、税区分、下請金額の範囲を確認してください。法定様式に見える社内テンプレートを作り、必要記載事項を落とすのは避けます。

施工体制台帳は別に要件を確認

施工体制台帳・施工体系図は、下請契約関係や現場の施工体制を明らかにする書類です。原価管理用の工事台帳と同じものではありません。公共工事では請負金額によらず作成が必要となる扱いがあり、民間工事では特定建設業者が元請となる場合の下請契約総額等、工事条件で要否を確認します。

2026年10月12日に確認した国土交通省の令和8年1月版資料では、民間工事について、特定建設業者が元請として直接請け負い、下請契約の総額が建築一式工事以外では5,000万円以上、建築一式工事では8,000万円以上となる場合を説明しています。金額には法令上の計算範囲・消費税等の扱いがあるため、下請契約の総額を単純に税込請求書だけで判断せず、現在の法令と発注条件を確認してください。対象になるときは、現場に備え付ける書類、掲示、変更時の更新、下請への通知などを一連で管理します。

施工体制台帳が必要か迷う場合は、工事が公共工事か、元請の許可区分、下請契約の総額、建築一式かどうかを先に整理します。施工体制台帳の作成要件や下請通知は、国土交通省の施工体制台帳の作成例・記載例と最新資料で確認してください。

よくある失敗と締め前チェック

  • 請負金額は税込、原価は税抜のまま比較する。
  • 見積額や予算額を、実際の発注・請求・支払額と区別しない。
  • 追加工事を確定契約額に混ぜ、注文者の承認状況が分からなくなる。
  • 未請求・未払の原価を落とし、工事が終わるまで採算悪化に気づかない。
  • 複数現場の人件費・機械費の配賦根拠を残さない。
  • 社内の原価管理表を、そのまま法定帳簿や施工体制台帳として提出する。
  • 工事番号が書類ごとに異なり、契約・注文・納品・請求の対応が追えない。
  • 保存年限が過ぎる前に、法定帳簿や添付資料を個人PCから削除する。

完成・月次締めのチェック:□契約額・税区分・変更契約が一致する □予算と実績の差に理由がある □未請求・未払の見込を確認した □注文・納品・請求の金額を照合した □共通費の配賦ルールと更新者を記録した □契約書類を工事番号で検索できる □第40条の3帳簿と施工体制台帳の該当性を別に判定した □保存開始日と保存先を明らかにした。

よくある質問

工事台帳に法律で決まった全国共通の様式はありますか?

「工事台帳」という名称だけで、原価管理表の全国共通の法定様式が決まるわけではありません。ただし、営業所の法定帳簿や施工体制台帳には法令上の記載事項・作成条件があります。用途に応じた様式を選び、必要な記録を満たしてください。

Excelで作ってもよいですか?

社内原価管理表をExcelで作ることは可能です。法定帳簿や電子保存に使う場合は、必要事項の記録・表示や、保存書類との対応等の要件を満たす運用かを法令と社内規程で確認してください。ファイル名、更新履歴、バックアップ、閲覧権限も決めておきます。

工事経歴書の「工事台帳」を添付するのですか?

工事経歴書(様式第二号)は、事業年度ごとの完成工事等を所定の様式で報告する書類です。通常の原価管理表とは別書類です。提出時の添付資料は、申請・届出の種類や提出先の現行案内で確認してください。工事経歴書の具体的な並べ方は工事経歴書の書き方の記事を参照してください。

下請工事だけでも施工体制台帳は必要ですか?

施工体制台帳を作成するのは元請負人です。下請として受けた会社は、元請から求められる施工体制情報や作業員名簿等を提出する場合があります。自社の立場、工事が公共か民間か、元請の下請契約総額と許可区分を確認してください。

建設業法の帳簿整備、工事経歴書、決算変更届はそれぞれ目的が異なります。法定書類の記載や届出の準備が必要な場合は、決算変更届の案内、料金・サポート内容をご覧ください。お問い合わせは相談フォームから行えます。初回30分の相談は無料、書類作成・調査・申請等の実務は別途有料で、正式依頼は任意です。

確認した公式資料

最終確認日:2026年10月12日。法令・手引き・調査案内の最新内容は、帳簿作成・提出の前にリンク先で再確認してください。