建築士に設計または工事監理を外注する建設会社は、2027年4月1日以降に結ぶ契約の書面化を準備しましょう。改正建築士法により、建物の面積を問わず、建築士が行う設計・工事監理の受託契約すべてへ、契約書面の相互交付義務が広がります。見積書を作成する努力義務と、見積内容を考慮して適正な委託代金にする努力義務も新設されます。
これは建設業許可の取得要件が変わる改正でも、工事請負契約全般を建築士法で規制する改正でもありません。建設会社が設計業務を外注するとき、設計・工事監理を受託するときに、どの契約が対象かを分けて準備する記事です。
はじめに契約の種類を分ける
建設会社の実務では、「設計図を描いてもらう契約」「建築士に工事監理を頼む契約」「実際に施工する工事請負契約」が一つの発注書や見積書の束に入ることがあります。契約書の表題だけでは対象を判断できないため、誰がどの成果・業務を受託し、どの資格者が担当するかを確認してください。
| 契約の実態 | 主な確認先 | 改正建築士法の見方 |
|---|---|---|
| 建築士が建物の設計を行う委託 | 設計受託契約、成果物、担当建築士 | 2027年4月1日以降は、面積を問わず書面契約の相互交付が対象になります。 |
| 建築士が施工と設計図書を照合する工事監理の委託 | 工事監理受託契約、確認方法、報告方法 | 設計と同様に、建築士が行う工事監理の受託契約が対象です。 |
| 工事を完成させる建設工事の請負 | 建設業法、工事請負契約書、工事の見積り | この改正だけで、すべての工事請負契約が建築士法の書面交付義務に変わるわけではありません。 |
建設業法の見積書・労務費・工期・資材価格のルールは、工事請負契約を中心に確認します。設計受託契約や工事監理受託契約を主題にした今回の改正とは別の制度です。工事の見積りを整理したい場合は、改正建設業法の見積書・契約チェック記事もご覧ください。
2027年4月1日から何が変わるか
2026年7月31日に建築士法の一部を改正する法律(令和8年法律第74号)が公布され、契約適正化に関する規定の施行日は2027年4月1日と定まりました。2026年10月9日には施行期日を定める政令などが公布されています。この記事では、2026年10月31日時点で確認できる現行制度と、施行日以降の取扱いを分けて説明します。
| 契約時期 | 対象範囲 | 実務で確認すること |
|---|---|---|
| 2027年3月31日まで | 現行条文では、原則として延べ面積300㎡を超える建築物の新築に係る設計・工事監理受託契約が対象。増築等は工事対象部分の扱いを現行条文で確認します。 | 現行の法定対象でなくても、業務範囲・報酬・変更方法が分かる契約書を交わしておく実務が有効です。ほかの建築士法上の説明・書面交付義務と混同しないでください。 |
| 2027年4月1日以降 | 建築士が行う設計または工事監理の委託を受ける契約は、延べ面積等を問わず対象へ拡大。 | 新築の小規模建物や、設計・工事監理を外注する契約も含め、誰が当事者か、契約日、業務内容を確認します。 |
施行日より前に締結した契約を後から変更するケースや、設計と施工を一括発注するケースの経過措置・適用関係は、個別の契約日、変更内容、委託業務によって確認が必要です。施行日前の契約を、すべて自動的に新制度へ切り替えるとは限りません。2027年4月以降に継続する案件は、契約書を作る建築士事務所や提出先の建築士担当窓口に、書面交付が必要となる契約の範囲を確認してください。
誰のどの契約が対象かを判定する
まず契約相手が、建築士法上の建築士による設計または工事監理を受託する立場かを確認します。次に、契約に含まれる業務が、設計図書の作成なのか、工事と設計図書の照合・報告なのかを分けます。会社が建設業許可を持っていること、建築工事を請け負っていることだけで、新しい書面交付義務が直ちに生じるわけではありません。
- 建設会社が建築士事務所へ設計を発注する:設計受託契約の当事者と成果物を確認します。建設会社が発注者になる場合も、委託する業務が対象に当たるかを見ます。
- 建設会社が建築士事務所へ工事監理を発注する:監理する工事の範囲、設計図書との照合方法、報告先を確認します。
- 建設会社自身が設計・工事監理を受託する:契約を受ける事務所、担当する建築士、建築士法上の事務所登録など、受託体制を確認します。
- 施工だけを請け負う:工事請負契約の内容は建設業法や契約約款で確認し、建築士法改正の設計・監理委託契約と混同しません。
- 設計・監理・施工をまとめて契約する:書面の表題ではなく、設計と監理を受託する当事者・担当建築士・報酬・成果物を契約内で切り分けます。判断が難しい契約は建築士事務所と行政窓口へ確認します。
この改正は、建設業許可の業種追加や技術者要件を変えるものではありません。建設業許可を保有する事業者にとっては、建物の設計や監理を発注・受託する際の契約実務を見直す話です。許可申請の準備は、建設業許可申請書(様式第1号)の記入ガイドで別に確認できます。
契約書に整理する項目
法第22条の3の3は、契約の締結時に対象事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付する形を定めています。改正で対象契約の範囲が広がるため、従来の300㎡超の案件用ひな型だけで足りると決めつけず、設計・監理のいずれを委託するかに応じて確認欄を整えましょう。
| 項目 | 設計を委託する場合 | 工事監理を委託する場合 |
|---|---|---|
| 業務の対象・成果 | 作成する設計図書の種類、委託範囲、建築物の概要 | 対象工事と設計図書、監理の範囲 |
| 確認・報告 | 設計条件、提出物、確認・修正の手順 | 工事と設計図書を照合する方法、実施状況を報告する方法 |
| 担当者・事務所 | 担当建築士の氏名・資格区分など。事務所名・所在地、開設者、建築士登録番号等の省令事項も現行規則で確認します。 | |
| 報酬・支払い | 報酬の額、支払時期、分割払い等の条件 | |
| 解除・変更 | 契約解除に関する事項、対象事項を変更する場合の合意方法と書面化 | |
| 一部再委託 | 設計・監理の一部をさらに委託する場合の業務概要、受託者、事務所情報など | |
上表は確認のための整理で、契約書の完成見本ではありません。建築士法と施行規則の現行条文には、設計図書の種類、工事監理の照合・報告方法、担当建築士、報酬・支払時期、解除事項、建築士事務所や対象建築物の情報、一部再委託の情報等が定められています。法改正の施行までに関係省令・様式・行政案内が更新される可能性があるため、実際に使う契約書は2027年4月前に最新版で照合してください。
設計変更や追加業務が起きたときは、口頭の指示だけで終わらせず、対象事項の変更内容、追加報酬、納期、提出する図書、担当者を記録します。変更時の書面交付の扱いも契約書と施行後の案内に沿って確認しましょう。
見積書と報酬の説明を準備する
改正法は、建築士事務所の開設者に対し、設計等の業務に係る契約を結ぼうとするとき、報酬の算定根拠を明らかにするための見積書を作るよう努める義務を設けます。設計・監理の委託を受ける側だけでなく、契約当事者も見積書の内容などを考慮し、業務内容に応じた適正な委託代金で契約するよう努めます。
これは「一律の報酬単価を決める」「発注者へ建築工事全体の詳細な施工見積書を必ず提出する」という意味ではありません。設計や監理の仕事の範囲・難易度・成果物・期間と、見積金額の考え方を相手に説明できるようにする方向です。努力義務であり、法律に定める義務と同じ表現で書かないようにします。
| 整理すること | 記載・確認する例 | よくある抜け |
|---|---|---|
| 業務範囲 | 基本設計、実施設計、申請図書、監理、定例報告など、依頼内容に合わせて区分 | 「設計一式」だけでどこまで含むか分からない |
| 成果物 | 提出する図書、データ形式、部数、検討・修正の回数や手順 | 追加案や大幅な条件変更が当初報酬に含まれるか曖昧 |
| 報酬の根拠 | 業務量、担当者、期間、専門性、現地調査や協議等の前提 | 金額だけ示し、算定の前提や除外業務がない |
| 支払い・変更 | 着手・中間・納品等の支払時期、追加業務が出た場合の協議手順 | 工期や図面が変わった際の費用と納期の扱いがない |
記載する業務区分や金額は、各案件の実態に合わせます。架空の一律単価を当てはめたり、工事費の一定割合が法律で必須だと誤解させたりしないでください。施行後も、見積り作成の努力義務を「報酬額が法律で決まった」と読み替えないことが大切です。
建設会社が今からできる5つの準備
- 過去1年分の契約を仕分ける。建築士が設計・工事監理する案件、施工のみの請負、設計施工一括を分け、発注者・受託者・担当事務所を一覧にします。
- 契約ひな型を点検する。設計と監理の業務範囲、提出物、報酬・支払時期、解除・変更、担当建築士、事務所情報をどの書面で渡すか確認します。
- 追加・変更の流れを決める。図面変更、工事監理の追加、工期変更があった場合、誰が見積りを出し、誰が承認し、どの書面を相互に保管するかを決めます。
- 電子契約の運用を確認する。書面交付に代えて電磁的方法を使う場合、相手方の承諾と、法令・省令の方式に従った提供が前提です。自社システムの送信記録、相手の受領、署名・記名押印相当の記録方法を確認します。
- 2027年3月までに公式情報を再確認する。施行日までに省令・記載例・行政窓口の案内が更新される可能性があります。実際に使うひな型を、施行直前に国土交通省と所管窓口の最新版で照合します。
電子契約を利用できる制度はありますが、PDFをメール添付すれば常に法定の相互交付を満たすとは限りません。相手の承諾、提供方法、内容を後から確認できる保存、署名・受領の手続を、契約当事者と使用システムの双方で確かめます。
架空の小規模新築工事で確認
次は説明用の架空例です。埼玉県内の建設会社Aが、延べ面積180㎡の小規模店舗の新築について、建築士事務所Bへ設計を依頼するケースを想定します。会社名・面積・状況は説明のための仮定で、実在する案件や顧客の実績ではありません。
| 確認 | 2027年3月31日までに締結 | 2027年4月1日以降に締結 |
|---|---|---|
| 面積による相互交付義務 | 現行の300㎡超新築の基準だけを見ると、180㎡の新築は同条の現行対象外となる例です。ただし他の建築士法上の説明・書面義務までなくなるわけではありません。 | 改正後は面積を問わず、建築士が行う設計受託契約が対象に含まれます。 |
| A社が確認すること | 依頼する成果物、業務の除外範囲、報酬と支払日、担当建築士、図面変更時の追加費用、相手が受け取った書面の控えをそろえます。 | |
| B事務所と相談すること | 見積りの算定前提、設計図書の種類、調査・協議の範囲、追加設計の扱い、電子契約の合意と記録方法を具体化します。 | |
この例は、現行制度と改正後の対象範囲の違いを見るためのものです。延べ面積が300㎡を超える案件や増築・改築・大規模修繕等、設計施工一括発注、法定の設計・監理区分に迷うケースへそのまま当てはめず、対象業務・契約日・建物の計画をそろえて所管窓口に確認してください。
よくある取り違えと提出前チェック
- 「建築士法改正だから、建設業許可の要件や更新書類も変わる」と考える。
- 「4月から建設工事請負契約がすべて建築士法で書面化される」と解釈する。
- 設計・工事監理・施工を一括した発注書の表題だけで、対象契約かどうかを決める。
- 見積りの努力義務を、建築士事務所が必ず特定形式の見積書を出す義務や、法定単価と読み替える。
- 見積書や契約書を送信しただけで、相手の承諾・受領・記録確認まで済んだと扱う。
- 施行日前に結んだ契約の変更・継続案件を、契約日の確認なしに新制度へ一律で当てはめる。
契約締結前のチェックリスト
- 設計受託、工事監理受託、施工請負のそれぞれの当事者を特定した。
- 設計・監理を担当する建築士と建築士事務所を確認した。
- 契約予定日が2027年4月1日の前か後かを確認した。
- 業務範囲・設計図書・照合方法・報告方法を契約書で確認した。
- 担当者・事務所情報、報酬・支払時期、解除・変更事項を確認した。
- 見積書の金額が、対象業務・期間・成果物・前提条件とつながっている。
- 電子契約の場合、相手の承諾、提供・受領の記録、保管方法を確認した。
- 法改正後の省令・様式・窓口案内を、施行前に再確認する担当者と日付を決めた。
よくある質問
この改正で建設業許可の申請や更新の要件も変わりますか?
今回確認した2027年4月施行の部分は、建築士が行う設計・工事監理の委託契約に関する改正です。建設業許可の申請・更新に必要な要件を変更する内容ではありません。許可申請の様式・添付書類は、別途、許可行政庁の最新案内を確認してください。
延べ面積300㎡以下の建物でも対象になりますか?
2027年4月1日以降は、建築士が行う設計・工事監理の受託契約について、延べ面積等を問わず対象へ広げると国土交通省が案内しています。対象となる契約の実態と当事者を確認し、施行直前の最新条文・省令を照合してください。
施工だけの工事請負契約も、建築士法の書面交付義務の対象ですか?
今回の拡大は、建築士が行う設計または工事監理の委託契約が対象です。施工だけを請け負う工事請負契約の書面・見積りは、建設業法や契約約款などの別のルールで確認します。設計・施工一括契約は設計業務の部分を分けて確認しましょう。
見積書は必ず出さないといけませんか?
新設されるのは、建築士事務所の開設者が報酬の算定根拠を明らかにする見積書を作成する「努力義務」です。発注者側も見積書の内容等を考慮し、業務内容に応じた適正な委託代金で契約するよう努めます。法律が全案件の定額や統一様式を定めるものではありません。
電子契約でも相互交付できますか?
法律上、相手方の承諾を得て、政令・国土交通省令で定める情報通信技術による方法を使う取扱いがあります。単にファイルを送るだけで要件を満たすと決めつけず、承諾、契約内容の提供、署名・受領の記録、保存方法を最新の規則で確認してください。
施行日より前に締結した契約も、すぐに作り直しますか?
契約の締結日、対象業務、変更内容、経過措置によって確認が必要です。施行日前の契約すべてを自動的に作り直すとは断定できません。施行日後に変更契約をする場合や、長期案件を継続する場合は、契約相手の建築士事務所と所管窓口へ、最新の取扱いを確認してください。
確認した公式資料
- 国土交通省「建築士法の一部を改正する法律(令和8年法律第74号)について」(法律は2026年7月31日公布。法律要綱・新旧対照表を掲載)
- 国土交通省「改正建築士法の施行に伴う関係政令を閣議決定」(2026年10月6日発表、政令は10月9日公布、契約適正化に関する規定は2027年4月1日施行)
- 国土交通省「建築士法の一部を改正する法律の概要」(令和8年法律第74号。300㎡超から面積等を問わず対象を拡大すること、見積り・適正な委託代金に関する努力義務を確認)
- 国土交通省「建築士法の一部を改正する法律 新旧対照表」(設計受託契約・工事監理受託契約の範囲、委託代金、見積書に関する条文変更を確認)
- e-Gov法令検索「建築士法」(現行条文の契約記載事項、300㎡超新築を対象とする従前の範囲を確認)
- e-Gov法令検索「建築士法施行規則」第17条の38等(建築士事務所、開設者、対象建築物、担当建築士、設備士、一部再委託に関する省令事項を確認)
法令・施行日・資料の確認日:2026年10月31日。2027年4月1日より前に省令・書式・行政の案内が更新された場合は、最新情報を優先してください。契約対象の判定が難しいときは、契約相手の建築士事務所または所管行政庁へ確認しましょう。
書類作成・調査・許可申請などの実務は別途有料です。相談後に正式依頼をするかどうかは任意です。建設業許可の対応範囲と費用は料金・サポート内容、相談はお問い合わせをご覧ください。
