執行者の指定は、死後に頼む役割を具体的に考えるところから
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な手続きを担う人です。遺言を作る本人が生前に財産を管理してもらう相手や、家族のすべての問題を解決する代理人とは、役割が異なります。
指定を考えるときは、候補者の名前だけでなく、遺言で何を実現したいか、候補者が引き受けられるか、費用や連絡方法をどうするかを整理します。この記事では、死亡後の個別の銀行手順ではなく、遺言を作る段階の確認事項を説明します。
制度確認日:2026年9月14日

仕事は「家族の代わりに何でも」ではなく、遺言の内容に応じて決まる
遺言は原則として本人が亡くなった時から効力を生じます。執行者には、その内容を実現するために相続財産を管理し、必要な行為をする権利と義務があります。たとえば、遺言で財産を渡す相手や財産の種類によって、必要な職務は変わります。民法985条・1012条
就職後は遺言の内容を相続人へ通知し、遅滞なく相続財産の目録を作成して交付することも法律上の仕事です。特定の財産についての遺言では、執行者の権限がその財産に関係する範囲となるなどの規定があります。「執行者がいるから、すべての財産や手続きを一括して任せられる」とは決めず、遺言の条項と照らして確認します。民法1007条・1011条・1014条
葬儀の手配、入院中の支払いや生前の財産管理などを頼みたい場合には、執行者の指定だけでその依頼まで済んだと考えないことが大切です。遺言で実現する事項と、別に相談する事項を書き分けると、候補者も負担を判断しやすくなります。
候補者の条件と、引き受ける意思を別々に確認する
資格の制限と、実際に動けるか
民法は、未成年者と破産者を遺言執行者になれない人としています。候補者に特定の専門資格を一律に要求する制度ではありませんが、法律上の資格と、実際に職務を担えるかは別です。年齢や健康、住む場所、仕事、家族との関係、書類や金銭を扱う負担まで含めて考えます。民法1009条
相続人である子どもを候補にする場合も、「長子だから当然に担当する」とは決めず、本人の意向を確認しましょう。遠方に住んでいる、財産の所在を知らない、ほかの家族への説明が難しいといった事情は、指定前の打合せで分かることがあります。
遺言による指定と、死亡後の就職
本人は遺言で執行者を指定できますが、名前を書いたことだけで、相手が将来の職務を必ず引き受けると約束したことにはなりません。民法は、執行者が就職を承諾した後、直ちに任務を行うことを定めています。生前に依頼の意思を伝え、仕事内容と条件を共有しておくことに意味があります。民法1006条・1007条
なお、死亡後に指定を知った人が、返事をしなければいつまでも保留できるとは限りません。相続人その他の利害関係人による、相当の期間を定めた就職の承諾についての催告に対し、その期間内に相続人へ確答しないと、承諾したものとみなす規定があります。催告を受けた場合は放置せず、対応を確認してください。民法1008条
複数の指定と、他の人に仕事を頼む場合
遺言執行者は、一人だけでなく複数を指定することもできます。ただし、二人なら各自が自由に別々の方針で進められる、という意味ではありません。原則として任務の執行は過半数で決め、保存行為は各自でできます。遺言で別段の意思を示す場合もあるため、人数とともに役割や決定方法を検討します。民法1006条・1017条
候補者を増やす前に、日常の連絡窓口、書類を保管する人、互いの確認が必要になる事項を相談しておきます。二人の意見が分かれたときの扱いが曖昧なままでは、人数を増やしても円滑に進むとは限りません。
また、執行者は、遺言で別段の意思が示されている場合を除き、自己の責任で第三者に任務を行わせることができます。「やむを得ない事情がある場合にしか頼めない」という一律の説明は現行法に合いません。ただし、他の人へ依頼すれば、執行者自身の責任や報告がすべてなくなるわけではありません。民法1016条
この規定が、各専門職の業務範囲をなくすものでもありません。登記の代理は司法書士、個別税務は税理士、紛争や法的判断・代理は弁護士など、問題に応じた確認が必要です。作成時の支援者と、執行時に依頼する専門家が同じであることも前提にしません。
報酬だけでなく、実費と追加の仕事を確認する
民法には、遺言で報酬を定めた場合を除き、家庭裁判所が事情を考慮して執行者の報酬を定められる規定があります。生前に専門家へ相談するなら、遺言に記載する報酬の扱いと、依頼先が提示する条件をすり合わせます。民法1018条
見積りでは、報酬の算定対象、必要書類の取得費や交通費、登記・税務など別の専門家への費用、当初把握していなかった財産が見つかった場合の扱いを確認します。現時点の財産一覧を基にした説明と、死亡後に確定する事項を分けておくと、認識の違いを減らせます。
家族に頼む場合も、無償だから負担がないとは限りません。窓口へ行く時間、書類の管理、関係者への説明などがあります。本人の希望を伝えるだけで終わらず、候補者が難しいと思う仕事を聞いておきましょう。
候補者が亡くなったり、引き受けられなくなったりしたら
遺言を作ってから相続が始まるまでに、候補者の健康、住所、家庭や仕事の状況は変わります。指定した人が先に亡くなった場合などには、その人の家族が当然に執行者の地位を引き継ぐと考えず、指定内容と次の対応を確認します。
執行者がいない、またはいなくなった場合には、利害関係人の請求により家庭裁判所が選任できる制度があります。候補者の変更や予備の指定を検討する場合も、他の遺言条項と合わせて整理してください。裁判所「遺言執行者の選任」
就職前に引受けを検討することと、就職後に辞任することも区別します。就職後の辞任には、正当な事由と家庭裁判所の許可を要する規定があります。家庭裁判所へ提出する書類の作成は司法書士等に、法的判断や代理が必要な問題は弁護士に確認します。民法1019条
指定前には、次の情報を一緒に整理する
| 確認すること | 整理する内容 |
|---|---|
| 実現したい遺言の内容 | 誰に、どの財産を残したいか。別の依頼が必要な希望は何か。 |
| 財産と資料の所在 | 金融機関や不動産などの一覧、資料と遺言書の保管先。 |
| 引受けの条件 | 候補者の意向、報酬と実費、他の専門家へ相談する事項。 |
| 将来の連絡 | 住所等が変わったときの連絡方法、死亡後に存在を知らせる相手。 |
暗証番号やパスワードを相談用の一覧に書き込んだり、メールで送ったりする必要はありません。まず財産の種類と所在を整理し、詳しい資料は必要な範囲と安全な受渡し方法を確認します。
当事務所の遺言書作成サポートでは、作成する遺言の希望と、執行者指定に向けて確認したい事項をお伝えください。作成支援と死亡後の執行の依頼は区別し、当事務所が執行を引き受けるかどうか、条件や料金は別途確認します。
遺言書作成の料金案内と、相続専用の相談窓口をご利用いただけます。
執行者の指定でよくある質問
子どもを遺言執行者にできますか?
相続人であることだけを理由に一律に禁止されているわけではありません。法律上の資格の制限に加え、本人の意向、負担、ほかの家族との連絡を考えて検討します。
名前を書いておけば、候補者への相談は不要ですか?
指定と引受けは別の問題です。希望する役割と条件を事前に共有し、その後も候補者の状況が変わっていないか確認するとよいでしょう。
執行者を指定すれば、葬儀や生前の支払いも任せられますか?
執行者指定だけで、それらの依頼まで済むとは考えないでください。遺言の執行に関する仕事と、それ以外に頼みたい仕事を分けて相談します。