海外財産の遺言準備は、国別の資料と相談先の整理から
海外にも財産がある方の遺言準備は、国・地域ごとの財産一覧と、本人・受け取る方の国籍や居住歴の整理から始めます。日本で遺言を作れば外国の財産も同じ手順で引き継げる、外国に財産があれば必ず現地の遺言を別に作る、という一律の整理はできません。希望を書式に当てはめる前に、日本と関係国で確認する問題を分けておきましょう。
この記事では、外国法の結論や税額ではなく、専門家へ相談するための情報のそろえ方を紹介します。国によっては州・地域でも制度や窓口が異なるため、国名だけでなく、財産の場所や契約先をできるだけ具体的に記録します。

財産を国・地域ごとに一覧にする
海外の不動産、銀行・証券口座、事業持分などについて、所在地や契約先、名義、持分、残高・評価の基準日、借入れや担保の有無を記録します。家族の記憶だけで「自分の財産」と決めず、登記・契約・取引明細等のどの資料で確認したかも残してください。共有名義や会社名義の場合は、誰が何を持つのかから確認が必要です。
「米ドルの口座だから米国の財産」といった判断は避けましょう。通貨、金融機関の名称、口座を取り扱う支店や契約主体の所在地は、それぞれ別の情報です。税法上の財産の所在と、手続きを扱う窓口も当然に同一とは限らないため、資料にある事実を記録し、法律上の分類は確認事項として残します。
一覧には財産だけでなく、ローン、保証、未払いの管理費、賃貸借など継続中の契約も加えます。受け取る人が遠方にいる場合、管理を続けられるか、売却を希望するか、必要な支払資金があるかも相談の材料になります。現時点の概算でよい項目には、その旨と調べた日を添えましょう。
国籍・住所・受け取る方の情報を整理する
遺言を作る本人の現在と過去の国籍、居住した国・地域、住所の変遷、生活の拠点、家族関係を整理します。配偶者や子、家族以外に残したい人についても、氏名の正式表記、関係、居住国など、相談に必要な範囲の情報をそろえます。
日本の戸籍と外国の証明書で氏名が異なる、婚姻や離婚の記載が一致しない、複数の国籍に関する事情がある場合は、その差異を一覧にします。都合のよい一つの情報だけを伝えると、財産の承継や税務を検討する前提が変わることがあります。相違の理由が分からない部分は、推測で埋めず未確認と表示してください。
家族に希望を説明するための概要と、専門家へ提示する証明書類は分けて管理します。最初から旅券の写しや口座番号一式を多数の相手へ送るのではなく、相談先が確認したい事項と、安全な資料共有方法を確かめてから提示しましょう。
遺言の方式と、内容の効力を分けて確認する
日本の国際私法では、相続に適用する法について通則法36条が被相続人の本国法を定め、遺言の成立・効力について37条が遺言成立時の遺言者の本国法を定めています。一方、物権については所在地法に関する13条があり、外国法から日本法へ戻る場合を扱う41条もあります。関係する事情を確認せず、「日本人なら外国財産も日本法だけで済む」とは判断できません。出典:法の適用に関する通則法13条・36条・37条・41条
書き方などの「方式」については、遺言の方式の準拠法に関する法律2条が、遺言をした地、国籍、住所、常居所、不動産の所在地に関わる複数の法を挙げています。これは日本で方式の有効性を検討するルールです。その条件を満たすことと、外国の窓口で直ちに名義を変えられること、遺言の内容すべてが有効になることは分けて確認します。出典:遺言の方式の準拠法に関する法律2条
相談時には、希望する分け方に加え、配偶者等に保障される権利、債務、財産の種類、どこで効力や手続きを確認するかを専門家に伝えます。日本での公正証書化や翻訳・認証だけで、外国法の問題まで解決するとは考えないようにしましょう。
現地で財産を引き継ぐ手続きを調べる
国・地域ごとに、死亡後に最初に連絡する金融機関、登記機関、裁判所等を整理します。遺言の原本、死亡の証明、相続人や遺言執行を担う人の権限を示す書類など、どの資料を誰が提出する必要があるかを確認してください。家族が外国へ行けばその場で全手続きが終わる、という予定は立てず、現地での代理人や専門家の必要性も確認します。
例えば英国政府のイングランド・ウェールズ向け案内では、遺産を扱う法的な権限に関するprobateの手続きが説明され、必要性について金融機関等への確認が案内されています。これは同地域の例で、すべての外国の財産に共通する制度ではありません。名称を日本の「検認」と同じ手続きだと読み替えることも避けてください。出典:英国政府「Applying for probate」
確認結果は「公式窓口の説明」「専門家の助言」「まだ回答がない事項」に分けて残します。外国法の判断や現地での手続きは、その国・地域に対応する専門家へ確認する内容です。当事務所の日本側の書類作成支援が可能かどうかも、財産と依頼内容を確認してから判断します。
複数の遺言や既存の契約を照合する
すでに日本または外国で遺言を作っている場合は、作成日、言語、対象財産、原本の保管先、変更した経緯を一覧にします。新しい遺言を作る相談では、他国向けの遺言があることも必ず伝えます。過去の遺言を取り消す趣旨の文言が、別の財産を扱う遺言にどう影響するかは、両方を見ながら確認すべき点です。
国ごとに遺言を分けるか、一つの遺言で扱うかは、作成・保管・死亡後の手続きの条件を踏まえて検討します。二つ作れば安全になる、同じ文面を翻訳すれば足りる、と決めることはできません。専門家に確認した対象範囲を記録し、家族がどの原本をどこへ出すかまで整理しましょう。
保険の受取人指定、共同名義、事業の定款や契約など、遺言以外の書類も示してください。遺言に希望を書けば既存の指定や契約上の扱いも当然に変更されるとは限りません。家族以外の人や団体へ残す場合は、受取人の特定、受入条件、管理や税務の負担も確認対象になります。
税務と管理費用の確認を並行する
日本の相続税について、国税庁は、財産を取得する方が外国に住む場合でも、国籍や住所等の条件によって国外財産が課税対象となる場合を案内しています。財産が海外にあることや受取人が海外に住むことだけで、日本の相続税と無関係とは判断できません。本人と受取人双方の居住歴などを税理士へ示して確認します。出典:国税庁「相続人が外国に居住しているとき」
外国側の税や届出、日本側との調整、評価方法、通貨の換算時点も個別に確認が必要です。税金が二重になるか、控除等が使えるかについて、国名だけで結論を出すことは避けましょう。税務の判断は、日本および関係国の制度に対応する税の専門家へ相談します。
遺言に財産の分け方を記載する検討と併せて、現地の管理費、書類発行、翻訳・認証、郵送、専門家への依頼など、必要になり得る費目を分けます。実際の費用や期間は未確認欄に残し、家族が支払う方法や連絡先が分かる形にしておくと、準備の不足を見つけやすくなります。
相談用の資料と更新方法を決める
相談用の資料は、国・地域ごとに「財産一覧」「名義・契約の根拠」「本人と家族の情報」「既存の遺言」「希望」「確認待ち事項」に分けます。原本の保管場所と、誰が存在を知っているかも記録します。残高や家族関係が変わったときに見直せるよう、一覧の更新日を付けてください。
日本の公文書を海外へ提出する場合、公印確認やアポスティーユなどが必要かは提出先に確認します。外務省の証明は、日本の公文書を外国で使用する際の手続きとして案内されており、外国の財産を相続できることや遺言の内容を保証する手続きではありません。必要な証明を確認してから原本や翻訳を手配しましょう。出典:外務省「公印確認・アポスティーユとは」
転居、国籍・家族関係の変化、財産の購入や売却、既存の遺言の変更があったら、関係する専門家へ再確認します。制度も変わるため、作成時に確認した内容を将来の受理条件として固定せず、実際に作成・提出する段階で最新の案内を確かめることが大切です。
よくある質問
日本の公正証書遺言なら、どの国でもそのまま使えますか?
そのような一律の保証はありません。方式や内容の効力に加え、外国の提出先が求める手続き、翻訳・認証、権限を証明する資料などを確認します。
少額の海外預金でも一覧に入れるべきですか?
存在が分かるものは記録しておくと、家族が照会先を把握できます。金額だけで手続きが不要とは決めず、口座の契約先や管理状況を整理して確認しましょう。
外国で作った遺言の写ししか手元にない場合は?
写しを相談資料として、作成した国、作成機関、日付、原本の保管先の手掛かりを整理します。写しだけで実際の相続手続きに使えるかは別問題なので、原本の取得や所在確認も相談してください。
日本側の準備を相談する
遺言書作成サポートでは、希望と資料を伺ったうえで日本側の支援範囲を確認します。外国法、現地の手続き、国際税務については、それぞれの専門家による確認が必要です。国・財産の種類・既存の遺言の有無を整理し、相続専用のお問い合わせからご相談ください。
相談を担当する行政書士
吉田雄介(行政書士登録番号22130594)。エールZEAL国際行政書士事務所(埼玉県比企郡滑川町)。事務所・担当者の紹介
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制度確認日:2026年9月15日