協議書は、全員の合意と財産の特定を確認してから作ります
遺産分割協議書は、共同相続人が合意した遺産の分け方を記録する書面です。書き方の中心は、「誰の相続について、誰が、どの財産を取得するか」を明確にすることです。ひな形に名前を入れる前に、遺言、相続人、財産、全員の合意を確認します。書き方・記載例と作成後の手続きから、知りたい内容をご覧いただけます。
多数決で分け方を決めたり、連絡が取れない相続人を除いたりして完成させるものではありません。話合いがまとまらない場合は弁護士への相談や家庭裁判所の手続きを検討します。裁判所「遺産分割調停」
制度確認日:2026年9月11日。以下の見本は構成を理解するための例で、個別の提出にそのまま使える完成書式ではありません。

必要かどうかは、遺言と実際の手続きから確認する
相続人が複数おり、話合いで不動産や預貯金などの取得者を決める場合は、その内容を示す協議書を使うことがあります。法定相続分と違う割合にする場合だけでなく、特定の財産を誰が取得するかを説明する役割があります。
相続人が一人の場合、遺言で対象財産の取得者が定められている場合、法定相続分で登記する場合などは、協議書を使わない手続きもあります。法務局も遺産分割による登記と法定相続による登記を分けて案内しています。法務局の登記手続ハンドブック
銀行などの所定書類で対応できることもあるため、「相続人が複数なら必ず同じ協議書が必要」と決めつけず、提出先に確認してください。遺言と違う分け方を考える場合は、受遺者や遺言執行者などの関係者、税務への影響もあるため、先に専門家へ相談します。
署名の前に、相続人・財産・提出先を揃えて確認
亡くなった方の戸籍をたどって相続人を確認し、相続放棄や、その後に亡くなった相続人の有無も調べます。相続人調査を家族の記憶だけで終えず、相続順位と必要な戸籍を確認しましょう。
財産は登記事項証明書、金融機関の資料、車検証などで確認します。借入金や未払金なども分けて把握し、財産の名称だけでなく、名義・持分・対象範囲を揃えます。金額の評価方法に違いがある場合は、どの資料をもとに話し合うかも共有してください。
借金や相続放棄を検討している場合は、財産を取得する合意や払戻し、売却などを先に進めてよいか、弁護士へ確認します。財産の処分は相続の承認との関係が問題になるためです。当事務所への問い合わせだけで放棄の申述や期限延長が行われることはありません。民法915条・921条・938条
合意をまとめる準備では、各提出先の所定書式、必要な添付書類、原本返却の可否も先に確認します。これにより、署名後に財産の記載を大きく修正する手戻りを減らせます。
基本事項を押さえ、見本は個別の資料に合わせて調整
一つの万能な書式はありませんが、被相続人の氏名・死亡日・最後の住所等、協議した人、合意内容、財産と取得者、日付、各人の住所・氏名等を明確にします。「妻」「長男」だけでなく、書類上の氏名で取得者を特定しましょう。
記載例・簡略版
被相続人【氏名】(【死亡日】死亡、最後の住所【住所】)の遺産について、共同相続人全員は、次の内容で分割することに合意した。
1.相続人【氏名A】は、次の土地を取得する。
所在【所在】/地番【地番】/地目【地目】/地積【地積】
2.相続人【氏名B】は、【金融機関・支店】の【預金種別】、口座番号【番号】の預金債権を取得する。
3.この協議書に記載していない遺産が後日判明した場合は、その遺産について共同相続人全員で改めて協議する。
【合意を確認した日付】
相続人それぞれの【住所・氏名・提出先が求める署名押印等】
この見本は、代理する人、共有持分、建物、代償金、売却代金の分配、債務などを網羅していません。空欄を埋めただけで完成とせず、必要な条項と添付書類を個別に確認してください。
財産は、第三者が特定できる情報で記載する
不動産を「自宅」、預貯金を「普段使っている銀行」と書くだけでは、対象が曖昧です。取得者の氏名と財産の特定情報を、元の証明書や口座資料と突き合わせます。
| 財産 | 確認する事項 |
|---|---|
| 土地・建物 | 登記上の所在・地番、家屋番号、種類等。土地と建物、被相続人の持分を分ける |
| 預貯金 | 金融機関・支店、預金種別、口座番号、対象とする預金債権 |
| 証券 | 証券会社、口座、対象となる銘柄・数量等。提出先の記載方法を確認 |
| 車両 | 登録番号・車台番号等と名義。車種に応じた提出先の書式を確認 |
特に不動産は、日常の住所と登記上の所在・地番が一致するとは限りません。共有物件なら、被相続人が所有していた持分を確認します。登記に使う協議書の書き方は、法務局の記載案内と照合してください。
後から見つかった財産を一人にまとめて取得させる条項は、影響が大きいため、単なる定型文として入れないようにします。また、「借金はAが負担する」という相続人間の合意だけで、債権者に対する他の相続人の責任まで当然になくなるわけではありません。債務の種類や債権者との関係は弁護士等へ確認します。裁判所の債務に関するQ&A
署名押印・原本・必要部数を提出先と確認する
本文はパソコンで作成できますが、相続人本人による合意の確認と、提出先が求める署名押印は別に必要です。相続登記などでは実印や印鑑証明書が必要になるため、使う手続きの案内に合わせます。印鑑証明書の発行時期も、すべての提出先に共通する一つの期限と考えないでください。
全員が同じ日に集まらない場合でも、同一の最終版を確認し、郵送等で署名押印を進める方法があります。途中で条項が変わった版へ署名が混在しないよう、日付や版を管理しましょう。本人の了解なく家族が代筆・押印して済ませないことも大切です。
必要部数は、提出先の数だけでなく、原本の返却、同時に進める手続き、各相続人の保管分から決めます。訂正が見つかったら勝手に書き換えず、関係者と提出先に確認して修正方法を揃えます。
協議書の作成と、税・登記・10年のルールを分ける
協議書の作成自体に、あらゆる相続へ共通する一律の期限があるわけではありません。しかし、協議が終わっていなくても期限が進む手続きがあります。
相続税の申告・納税
申告・納税が必要な場合は原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。未分割でも期限は延びません。税額や特例の扱いは税理士へ確認します。国税庁の申告期限・未分割の場合の申告
相続登記の基本義務と、遺産分割後の義務
不動産の相続登記は原則として、相続の開始と、その相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります。遺産分割が終わるまで、この期限が止まるわけではありません。その後の遺産分割で不動産を取得したときには、分割の日から3年以内に、その内容に応じた登記をする義務もあります。
2024年4月1日より前の相続も対象です。同日より前に取得を知っていた未登記不動産は原則2027年3月31日までで、施行後に取得を知った場合は、その知った日から3年以内となります。すでに行った登記や相続人申告登記の有無によって必要な対応が変わるため、司法書士や法務局へ確認してください。法務省の相続登記義務化Q&A
10年経過後の遺産分割
相続開始から10年経過後は、原則として特別受益・寄与分を考慮する具体的相続分ではなく、法定相続分・指定相続分による分割となります。「10年たつと分割できない」という意味ではなく、10年経過後も全員が合意すれば、特別受益や寄与分を考慮した分割は可能です。期限前の家庭裁判所への請求などには例外もあります。
2023年4月1日時点で相続開始から5年を超えていたケースには、2028年3月31日までの猶予期間が設けられています。これは登記の2027年3月31日とは別の制度です。具体的相続分を主張したい場合は、適用時期と必要な申立てを弁護士へ確認してください。法務省「遺産分割に関する新たなルール」・民法904条の3
未成年者・意思確認・海外関係は、署名の方法から判断しない
親権者と未成年の子が共同相続人として遺産分割をする場合など、利益が相反するときは、家庭裁判所へ子の特別代理人の選任を請求する必要があります。同じ親権に服する子同士の利益相反も確認が必要です。「親が子の欄も署名すればよい」とは考えないでください。裁判所の特別代理人選任案内
意思表示が難しい方、連絡不能・所在不明の方、その後に亡くなった相続人がいる場合も、参加する人と権限を確認してから進めます。家庭裁判所へ提出する書類の作成は司法書士等へ、法的判断や手続きの代理は弁護士へ相談してください。
海外在住者の署名証明は、国籍と提出先で確認します。日本の在外公館の署名証明は原則として日本国籍の方が対象で、元日本人には発給できる場合があります。外国籍の方が当然に同じ証明を取れるわけではありません。証明の形式、本人が公館で署名する必要性などを先に確認します。外務省の署名証明案内
作成後の手続きと保管を確認する
協議書だけで口座の払戻しや登記が完了するわけではありません。財産ごとの提出先へ、協議書と戸籍、本人確認などの必要資料を提出します。不動産登記は司法書士、個別税務は税理士の担当で、当事務所の書類作成依頼に自動的に含まれません。
財産が後から見つかったら、書き足してよいですか?
一人で追記しないでください。すでに合意した条項を確認し、対象財産が含まれるか、追加協議が必要かを整理します。
全員が合意すれば、作成後でも自由に変更できますか?
変更できる場合でも、すでに行った登記や売却、第三者の権利、税務への影響を確認する必要があります。差替えや再分割を先に進めず、担当する専門家へ相談してください。
合意内容を書面にする支援が必要な方へ
当事務所では、戸籍と財産資料を確認し、合意済みの内容に基づく遺産分割協議書の作成支援を案内しています。相続人の資料から確認したい場合は戸籍収集・相続人調査もご覧ください。
依頼範囲と料金の条件、ご相談の流れを確認し、現在の合意状況と資料をお問い合わせでお知らせください。行政書士が相続人間の交渉や紛争解決を代理することはできません。