制度確認日:2026年9月15日
遺言の方式は、書くときだけでなく、保管と死後の手続きまで比べて選びます
自筆証書遺言と公正証書遺言を比べるときは、「自分で書くか、公証人に作成してもらうか」に加え、原本をどこで保管し、亡くなった後に家族がどう確認するかまで考えます。自筆証書遺言にも、自宅等で保管する場合と、法務局の保管制度を利用する場合があり、死後の検認の要否が異なります。
費用の安さだけでも、公的機関に預ける安心感だけでも、本人に合う方式は決まりません。本人が希望を伝えられるか、自書や外出に支障がないか、財産や受取人の整理に助言が必要かを順に確かめましょう。この記事は方式を検討する入口であり、個別の遺言が有効かを判定するものではありません。

自筆証書遺言は、保管方法も分けて比較します
ここでは自筆証書遺言と公正証書遺言を比べます。
- 作成
- 本人が作成。
- 保管
- 保管先を自分で決める。
- 死後の検認
- 必要。
- 作成
- 本人が作成し、本人が保管申請。
- 保管
- 法務局の遺言書保管所。
- 死後の検認
- 不要。
- 作成
- 本人の意思を確認して公証人が作成。
- 保管
- 公証役場側で保管。
- 死後の検認
- 不要。
法務局の保管は有効性を保証する制度ではありません。検認の要否と、内容の有効性・銀行や登記の手続きは別に確認します。
法務局へ預けた自筆証書遺言が、公正証書になるわけではありません。
民法は遺言の方式を定めています。ここでは、一般に検討される自筆証書遺言と公正証書遺言を取り上げます。秘密証書遺言や、特別な事情の下で用いる方式までを、この比較表で一律に扱ってはいません。民法第967条以降
| 確認する点 | 自筆・自宅等で保管 | 自筆・法務局で保管 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|---|
| 作成する人 | 遺言者本人 | 遺言者本人。保管所が遺言を作成する制度ではない | 本人の意思を確認して公証人が作成 |
| 本文等の自書 | 全文・日付・氏名の自書が基本。添付目録には例外がある | 同じ自書要件に加え、保管制度の様式にも合わせる | 全文の自書は不要。本人の意思確認等は必要 |
| 証人 | 方式上は不要 | 方式上は不要 | 2人以上の立会いが必要。資格の制限がある |
| 原本の保管 | 保管先を本人が考える | 法務局の遺言書保管所 | 公証役場側で保管。電子原本は所定のシステムで保存 |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 不要 |
この表は「有効・無効」や「争いの起きやすさ」に点数を付けるものではありません。同じ方式でも、誰にどの財産を残すかという内容や、作成時の本人の状態、他の文書との関係によって確認事項が変わります。方式の条件と、希望を実現できる内容かどうかを分けて検討してください。自書要件は法務省の作成上の注意、公正証書の手続きは日本公証人連合会の遺言案内も確認できます。
本人が遺言をすることは、どちらの方式でも変わりません
自筆証書遺言では、本人が全文・日付・氏名を自書し、押印することが確認日時点の基本です。パソコン等で作成できる添付財産目録にも、署名・押印などの条件があります。「財産目録を印刷できるので、本文もすべて印刷してよい」という意味ではありません。書き方や訂正の詳細は、関連記事の自筆証書遺言の形式を確認してください。
公正証書遺言では、公証人が本人から遺言の趣旨を聞き、意思を確認して作成します。家族が希望の整理や資料収集を手伝うことと、本人の代わりに遺言をすることは別です。本人の委任状があれば家族だけで遺言を完成できる、という手続きではありません。口授に代わる方法など、身体の事情に応じた法律上の措置もあります。民法第969条・第969条の2
遺言をするには、作成時に必要な能力を有することが前提です。民法では満15歳から遺言をすることができますが、年齢だけで個別の作成可否を決めるわけではありません。字が書きにくいこと、話を聞き取りにくいこと、意思を理解して判断できるかということも、一つにまとめないでください。本人の状態と必要な支援を、公証人や担当専門家へ具体的に伝えます。民法第961条・第963条
原本を守る方法と、家族が存在を知る方法を用意します
自宅等に置く場合は、紛失や処分を避けることに加え、亡くなった後に必要な人が発見できる保管方法を考えます。内容を今すぐ家族全員へ知らせるかどうかと、遺言の存在・保管先・相談した窓口を必要な人へ伝えるかどうかは、分けて決めることができます。
法務局の保管制度では、本人が作成した自筆証書遺言について、予約のうえ本人が保管申請を行います。代理人や郵送による保管申請はできません。自宅で書けることと、本人が保管所で申請できることは別の条件なので、外出が難しい場合は早い段階で確認します。法務省:遺言者の手続
保管所で行うのは、所定の形式についての外形的な確認と保管です。内容の相談や、遺言の有効性を保証する制度ではありません。法務省:保管申請ガイドブック。保管証に記載された保管所や保管番号は、家族等が後の手続きを調べる手がかりとして管理します。公正証書を選ぶ場合も、作成した公証役場と交付を受けた書面・電子データの所在を整理してください。
保管先を伝えるメモには、必要のない金融機関の暗証番号やログイン用の秘密情報まで一緒に書き込まないようにします。保管場所の管理、資料にアクセスできる人、財産の分け方を決める遺言本文は、それぞれ役割が違います。
検認が不要でも、銀行や登記などの手続きは残ります
自宅等で保管された自筆証書遺言は、遺言者の死亡後に家庭裁判所の検認が必要です。一方、公正証書遺言と、法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言については検認が不要です。封印のある遺言書を見つけた場合は、自分たちで開封せず、裁判所の案内を確認してください。
検認は、その時点の遺言書の状態や内容を明らかにする手続きであり、有効か無効かを裁判所が確定する手続きではありません。「検認が終われば内容の問題も解決する」「検認不要なら何の確認もいらない」とは考えないようにします。裁判所:遺言書の検認
その後に必要な銀行の払戻し、相続登記、税務申告等は、遺言の内容や財産に応じて別々に進めます。遺言を作成しただけで、死亡と同時に金融機関や登記の名義が書き換わるわけではありません。誰が遺言を確認し、どの専門家や窓口へ連絡するかまで考えておくと、方式の比較が具体的になります。
作成費だけでなく、資料・保管・支援の範囲をそろえて比べます
自分で書く場合も、資料取得、保管制度の利用、専門家への相談・作成支援などを依頼すれば、それぞれの費用が生じます。法務局の保管申請手数料は遺言書1通につき3,900円と案内されています。これは遺言の作成支援や戸籍等の取得費を含む総額ではありません。法務省:保管制度のよくある質問
公正証書では、公証人の手数料を財産の価額や受取人等に応じて確認します。出張、交付を受ける書面等、証人の手配、別途依頼する専門家の支援も含め、見積りがどこまでを対象としているかを確かめます。方式を選ぶ段階では、費用の一部だけを並べて安い・高いと決めないことが大切です。日本公証人連合会:遺言の作成手数料
比較用のメモには、「公的な手数料」「書類等の実費」「依頼する支援の報酬」を分けます。変更や再作成を頼む場合の扱いも確認しておきましょう。支援を依頼するときは、希望する作業と資料の取得状況を伝え、報酬と別途必要な費用を事前に確認してください。
方式を決める前に、希望・作成条件・引継ぎの3点を整理します
まず、誰に何を残したいか、まだ迷っている点は何かを本人の言葉で書き出します。財産額の大きさだけで方式を決めず、自宅を共有している、家族以外へ残したい、受取人の事情が変わりそう、といった確認点も添えてください。
次に、自書、移動、面談、資料の準備について、本人ができることと支援が必要なことを整理します。公正証書の作成では出張や条件付きのウェブ会議も相談できますが、希望しただけで必ず利用できるわけではありません。本人の意思を適切に確認できるかを含め、公証人が判断します。
最後に、遺言を残した後の連絡先と、見直すきっかけを決めます。たとえば「保管場所が不明にならないよう、信頼できる人へ所在を伝える」「不動産を売却したら内容を確認する」といった準備です。方式が決まっても、受取人や財産の変化への点検は続けます。
公正証書の電子化と、2026年改正の施行は別に確認します
2025年10月からの公正証書のデジタル化では、指定公証人による作成は原則として電子原本を用います。所定の条件でウェブ会議を利用する仕組みもあります。「電子データで作ること」と「本人が場所を問わず自由にオンラインで作れること」は同じではありません。日本公証人連合会:公正証書のデジタル化
また、2026年6月には、押印の任意化や保管証書遺言の創設等を含む改正法が公布されています。法務省は内容ごとに異なる施行時期を案内しており、法律が成立したことを、すべての新制度がすでに使えるという意味にはできません。本稿は確認日時点の運用案内に基づき、実際の作成時には施行日と適用される要件を改めて確認します。法務省:2026年の遺言制度等の見直し
遺言の方式についてよくある質問
自筆証書遺言を法務局へ預ければ、公正証書遺言になりますか?
なりません。自分で作成した自筆証書遺言を法務局が保管する制度です。公証人が本人の意思を確認して作成する公正証書遺言とは、作成の仕組みが異なります。
公正証書遺言なら、家族の争いは必ず防げますか?
必ず防げるとはいえません。方式だけで、本人の意思や遺言の解釈、遺留分等の問題がすべてなくなるわけではありません。具体的な懸念がある場合は、作成前に弁護士等へ確認してください。
一度選んだ方式は、後で変えられませんか?
見直しはできますが、新しい遺言の方式や、既存の遺言と抵触する内容の確認が必要です。後の日付の文書があれば以前のすべてが消えると自己判断せず、既存の文書も示して相談します。民法第1022条・第1023条
まだ方式を決めていない段階から、準備する内容を整理する
当事務所の遺言書作成サポートでは、本人の希望、家族関係、財産資料をもとに、対応できる準備支援の範囲を確認します。公正証書は公証人が作成し、個別の紛争・法的判断は弁護士、税務は税理士、登記は司法書士等へ確認します。
方式が未定の場合も、迷っている点と手元の資料を添えて、相続・遺言の相談窓口へお問い合わせください。