
「遺言書をパソコンで作れるようになった」と聞いて、すぐに印刷して使えるのか気になっている方へ。2026年6月に遺言制度を見直す法律が成立しましたが、2026年10月25日現在、新しい「保管証書遺言」はまだ利用開始日が確定していません。現在の自筆証書遺言は、本文・日付・氏名を本人が自書し、押印するルールが続いています。
この記事では、成立した改正と現在使える方法を分け、今すぐ準備する場合の確認手順を整理します。
2026年の改正で決まったこと
「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)は、2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。遺言に関する主な見直しは、①押印を任意とすること、②パソコン等で作成した情報をもとに法務局で保管する「保管証書遺言」を新設することです。
ただし、どちらも公布と同時に使える制度ではありません。法務省の案内では、押印の任意化などは公布から1年を超えない範囲で政令が定める日、保管証書遺言などシステム改修を要する部分は公布から3年を超えない範囲で政令が定める日に施行するとされています。確認した法務省の案内ページには、具体的な施行日は記載されていません。
「保管証書遺言」は、パソコンで作って保存するだけではない
法務省の概要資料によると、新しい方式では、パソコン等で作成した遺言のデータや印刷物を法務局に提供し、遺言者本人が法務局職員の前で遺言の全文を口述するなどして、法務局が保管します。本人が対面で手続きをする方法に加え、ウェブ会議を使う方法も制度の内容に含まれています。
これは、現在の自筆証書遺言をWordなどで作成して署名するだけで成立させる変更ではありません。新方式を使うには、施行後に定められる手続・本人確認・保管の流れに沿う必要があります。受付の開始日、提出形式、予約方法などは、施行日や法務省の最新案内が公表されてから確認してください。
いま自筆証書遺言を作る場合のルール
現在の民法968条では、自筆証書遺言の本文、作成日付、氏名を遺言者本人が自書し、押印する必要があります。日付は作成日が特定できる形で記載します。「令和8年10月吉日」のような書き方は避け、実際に作成した日を記載します。
財産目録は例外です。財産目録の部分はパソコンで作成したり、登記事項証明書や通帳のコピーを添付したりできます。その場合は、自書によらない記載がある各ページ(両面に記載があるときは両面)に、遺言者が署名・押印します。本文まで印刷したものを、現行の自筆証書遺言としてそのまま使えるわけではありません。
形式を確認するための簡単なチェック
- 本文は、遺言者本人が全文を手書きしている
- 作成日付は、年月日を特定できる形で書いている
- 氏名を本人が書き、押印している
- パソコン作成の財産目録や添付資料がある場合、その各ページに署名・押印している
- 訂正や加筆をした箇所は、法務省の現行案内にある方法を確認している
この確認は方式面の入口です。財産の表し方や受け取る人の指定が明確か、相続人間の紛争・遺留分・税務・登記に問題がないかまでは、書式だけでは判断できません。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を使うとき
現行の法務局保管制度は、自筆証書遺言を保管する仕組みです。申請できるのは遺言者本人で、代理人による申請や郵送申請はできません。予約した日時に本人が遺言書保管所へ行き、申請します。提出先にできる法務局は、本人の住所地・本籍地または所有不動産の所在地を管轄する遺言書保管所などから確認します。
法務局では、遺言書の保管に必要な形式面を確認しますが、遺言の内容について相談に応じたり、希望どおりの分け方かを判断したりするものではありません。保管制度を利用する場合も、内容の整理と形式の確認を別に考えましょう。
いま準備を始める人の進め方
- 作成を急ぐ事情があるか確認する。 近いうちに意思を残す必要がある場合、施行日が未確定の新制度を待つのではなく、現行制度の方法を確認します。
- 家族と財産を一覧にする。 配偶者・子などの関係、不動産、預貯金、保険、事業の持分などを、分かる範囲で書き出します。名義や所在地も資料で確かめます。
- 希望を「誰に、何を、どう渡したいか」に分けて整理する。 まだ決められない項目は空欄や保留と分かるようにし、無理に文案へ押し込まないようにします。
- 現行の方式を選ぶ。 自筆証書、公正証書、法務局保管制度の違いを、作成の方法、保管、手続きや費用の観点で比べます。
- 個別の法的判断を確認する。 複雑な財産配分、遺留分、相続人間の対立や遺言の有効性に関する判断は弁護士へ、不動産の相続登記は司法書士へ、相続税の申告・税務判断は税理士へ確認します。
内容がまだまとまっていない場合は、家族関係と財産の概略、残したい希望、過去に作った遺言の有無をメモにするところから始められます。遺言書の作成準備や相続書類については、相続・遺言の業務案内もご覧ください。
よくある誤解
改正法が成立したので、今日から本文をパソコンで作れる?
いいえ。保管証書遺言などは施行日と手続きが定まってから利用できる制度です。現行の自筆証書遺言の本文は、引き続き本人が自書するルールです。
押印が任意になるなら、今の遺言書も印鑑なしでよい?
改正内容を現行のルールに先取りして適用することはできません。現時点で自筆証書遺言を作るなら、法務省が案内する現在の方式を確認してください。
法務局に預ければ、遺言内容の有効性も確認してもらえる?
法務局の案内は、遺言書の内容に関する相談には応じないとしています。保管制度による形式面の確認と、希望する分け方の法的な検討は別です。
今ある遺言を、新しい方式に合わせて書き直すべき?
改正があったという理由だけで、すべての遺言を作り直す必要があるとは限りません。作成時期、方式、内容、家族や財産の変化を確認して判断します。書き直す場合は、古い遺言の扱いも含めて専門家に確認してください。
作成前のチェックリスト
- いま使える制度と、施行後に始まる制度を区別した
- 遺言者本人の希望と、家族が望む内容を混同していない
- 家族関係・財産の資料と、受け取る人の氏名を確認した
- 自筆証書遺言の場合、本文・日付・氏名・押印の現行要件を確認した
- 法務局での保管を希望する場合、本人の予約・出頭と対象窓口を確認した
- 内容の法的判断、登記、税務に関わる点の相談先を分けた
参考にした公式資料
- 法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について(改正法の公布日、概要、施行時期)
- 法務省「民法等改正法の概要」(保管証書遺言の方式)
- 法務省「遺言書の様式等についての注意事項」(現行の自筆証書遺言の方式)
- 法務省「遺言者の手続」(現行の自筆証書遺言書保管制度)
制度の確認日:2026年10月25日。施行日や窓口手続きは今後更新される可能性があるため、作成・申請の直前に法務省・法務局の最新案内を確認してください。
